2024.3.12
“ジュニア振り”を避ける
2024.3.12
“ジュニア振り”を避ける
(設計思想の違い)
風邪のため息子が先週末からクラブを振っていないこともあって、クラブについて改めて考えを巡らせております。一時期使っていた時期もありますが、なんで大人のクラブを調整して使わせないのか。ジュニアクラブになぜこだわるのか。
息子は現在7歳。私には、ひとつの仮説めいたものがあります。「多くの人から超一流と見なさているプロゴルファーが小さい頃に身体に合ったジュニアクラブを使用していたら、怪我も少なく今よりも結果を出していただろう」。これ仮説?、そもそも検証できないだろうと自分でも思います。それに、“ジュニアクラブ”じゃなくて、自分の身体に合った“クラブ”でいいじゃんと。超一流プロゴルファーだって幼少期から大人のクラブを切って使っていた。ジュニアクラブが充実した時代にゴルフを始めた今の若手の幼少期を見ても、大人のクラブを工夫して使われている。皆さん、ジュニアクラブを使っていません。
例えば、先日、アマチュア優勝を飾ったNick Dunlapプロが7歳の頃、その時は2010年で既にUSkidsのクラブがあったわけですが、動画を見る限りドライバーは大人用のヘッドを使用しています。また、歳はだいぶ上になりますが、4歳から本格的にゴルフを始めたJordan Spiethプロ。その当時の写真が自身の公式ウェブサイトに掲載されていて、かなり重たそうなクラブを抱えています*1。さらに、タイトリストの公式ウェブサイトには、次のようにご本人の説明があります*2。「私はフルセットのクラブを使えるようになったときから、ずっとタイトリストのアイアンでプレーしてきました。そして、自分がフィードバックしたコメントも取り入れられて作られたクラブでプレーできるのは、私のようなゴルフを愛する人間にとって、この上ないことなのです」。ジュニア時代の早い段階から大人用のアイアンを使われていたことが推測できます。
論点をもとに戻しますと、少々大げさな言い方になりますが、私のこの仮説めいた考えは賢人たちの多様な意見がベースになっています。日本のプロゴルファーという視点からそのひとつをあげると、児山和弘(コヤマカズヒロ)さんによるご説明*3。クラブについても造詣が深く、数多くのプロゴルファーを取材、見続けてこられたお方。先日も渋野日向子プロのインタビュー取材をされておられました。10年以上前の記事になります。息子とゴルフを始めるちょうどその時にアーカイブスのような感じでこの記事に出会いました。この記事の中で、世界で活躍したジュニアゴルファーが大人になって思うような成果が出ない理由について、ゴルフクラブという視点から説明されておられます。私がまとめてしまうと行間を含めたそのメッセージが伝わらないと思いますので、まるごと引用させていただきます。ぜひその前後も読んでいただきたいのでサイトを訪れてみてください。
「クラブがスイングに大きく影響を及ぼすのは、ジュニアゴルファーも同様です。多いケースは、やはり大人用のクラブなどでゴルフを覚えた場合。クラブが重すぎるため、重いクラブを振れるようなスイングになります。個性の出やすいトップオブスイングでは、ヘッドが飛球線方向にたれたり、逆に重いクラブをコントロールしようとして、ノーコックでクラブを立てるようにスイングしたりします。ダウンスイングで頭が下がったり、フィニッシュで反り返ったりするのも重いクラブを使用するジュニアゴルファーの特徴と言えるでしょう。日本のジュニアゴルファーのレベルは高く、古閑美保プロや金田久美子プロをはじめ、ジュニア時代から世界で活躍している選手が多く存在します。しかし、必ずしも成長してプロゴルファーとして世界的に活躍できるかというとなかなか難しいのが現状です。これには、理由が様々あると思いますが、ジュニア時代に形作られたスイングが、大人になって成長した身体と必ずしもマッチしていないということも言えるのではないかと思います。多くのスポーツで、成長過程特有の壁にぶつかるケースがありますが、ゴルフは特に道具の比重が高いスポーツなので、その影響も顕著です」
以上です。この記事を読んですぐにこんなことを当時考えました。“ジュニア振り”なるものが身についてしまうと大人になって苦労する。苦労して修正できれば良いがこれがかなり難しい。上っ面だけ修正してもダメ。うまく移行できない。移行する際にジュニア時代に培ったものが崩れていく。個性的なスイングだと言って逃れられない現実。根本的な修正が必要なかったらラッキー。
であったら、“ジュニア振り”をさせずに、いきなり大人用スイングを子どもにさせる、という考えがでてきます。実際にそれを徹底されたのが日本で言うと金谷拓実プロです*4。現在、米国では主流の考え方です。で、私の結論は、ジュニアとりわけ低年齢ジュニアの場合、大人用スイングを本質的なレベルで身に付けるのであれば大人用クラブでは限界があり、膨大なデータの蓄積とその分析によって生まれたジュニアクラブを使う必要がある、というもの。単に軽いというだけでなくて、特にロフト角の話も含めて。ロフト角だけで弾道は決まらない点は重々承知の上です。大人用のスイングを習得することが必要だと認識しそれに取り組んだとしても、大人用クラブでは見た目はなんとかなってもやはり無理が生じてしまう。あのJon Rahmプロですら“ジュニア振り”を修正するのに苦労したのですから。Jon Rahmプロは大人用のクラブ、しかもきっちりとしたフィッテングなしにジュニア後期までクラブを使用していた。あの身体能力をもってしても12,3歳の頃に修正したということなので、“ジュニア振り”を修正する時期は中学生までが目安になるのかなと思います。
ジュニアクラブを小学生時代ずっと使って大人用のスイングづくりをされたプロゴルファーがいないような気がします。今もなお、上手な子ほど大人用のクラブを調整して使っている印象があります。ジュニアクラブは初心者用という位置づけ。なので仮説が厳密には検証できません。私の単なる思い違いかもしれません。でも、遅くからゴルフを始めて一流になられたプロゴルファーの存在は見過ごすことができません。身体が出来上がっていなくても、例えば6歳と10歳では明らかに差があります。相対的に遅く始めた方が無理が少ない。じゃあ、3歳頃からゴルフを始めて超一流になったプロもいるでしょ、関係ないんじゃない、とも言われてしまう。1歳もいるぞと。
それはそうなのですが、そもそも他にも沢山の要因がありますし、私の仮説めいたものと矛盾はしておりません。「多くの人から超一流と見なさているプロゴルファーが小さい頃に身体に合ったジュニアクラブを使用していたら、怪我も少なく今よりも結果を出していただろう」。プロを目指すかどうかにかかわらず、大事な身体への負荷を避けたい。大人でも身体に負荷がかかるゴルフ。長く楽しむためにも、出来る限りジュニアクラブを使用する時期を延ばしたいというのが、今のところの考えです。
*1 "Jordan's Personal Photos," JORDAN SPIETH. 49枚目の写真です。48枚目にも4歳の頃の写真が掲載されています。キャプションには、1998年、4歳のクリスマスにクラブをプレゼントされたとの記述があります。こちらは、フェアウェイウッドと思われます。ジャストサイズ。
*2 「NEW タイトリスト T-SERIES アイアン がツアーデビュー」, 公式ウェブサイト;タイトリスト, 2023.5.30. 原文はこちら。“I’ve always played Titleist irons since I could have a full set of clubs. And to be able to feel like ones are made in the image and likeness that I’ve made comments on, is super cool for someone who loves the game like myself (“Now on Tour: New Titleist T-Series Irons," Titleist, 2023.5.29)."
*3 児山和弘, 「注意したいジュニアゴルファーのクラブ選び」, All About, 2011.7.29. 重さと長さを適正に、と強調されておられます。この記事が書かれた13年前と比べると今はジュニアゴルフクラブがさらに充実しています。私が思うにポイントは、ジュニアのデータがそのメーカーさんにどれほど蓄積されているのかどうか。単に短く、軽く、柔らかく、では話になりません。その子に合わせて、でも良いのですが、より本質的なところで言うと、「こうした特性のあるクラブをこの時期に振ると今後こうしたスイングが身についてしまう」というような、ある特定個人の長期的なデータ、かつ多数のジュニアのデータが必要です。こうしたことをアメリカでは徹底しているというのを、ジュニアゴルフ専門組織の開発担当者さんやTPIのコーチから話を聞いて、そりゃそうだような、と思いました。でもお相手は、「すぐに大人のクラブに移行しちゃうんだよね」とも嘆いておられる。親御さんの気持ちがよく分かります、私も当事者なので。
*4 「ゴルフはどうすればうまくなるのか。最初にどう教わればいいのか。」, YouTube;HIGH SPEC GOLF, 2020.12.10. 金谷拓実プロを小学生時代から指導してきた岸副哲也プロ。弾道を見て、なぜそういう球筋になったのかを本人に説明させるというスタイル。言語能力が高まりそうです。“ジュニア振り”をさせない工夫を説明されておられます。ポイントは基本をたたき込むこと。グリップ、アドレス、テイクバック、切り替えし、インパクト、フォロースルー。リボン振りはダメ… えっ… 軸がぶれないスイングを身に付けること。基本を大事にしながら、会話を通じて自分で判断・修正できる能力を高めること。これが安定的なスイング形成の土台だそうです。問答。ちなみに金谷拓実プロが岸副哲也プロのもとを訪れたときには、プラスチックのドライバーと大人用のクラブをカットしたものを手にしていたそうです。ドライバーはどのようなモノを指しているのか分かりません。ただ、ジュニアクラブは小学2,3年生の頃でさえ使っていない。要するに、金谷拓実プロはジュニア初期に大人用スイングを大人用クラブで身に付けようとされていたわけです。