2025.1.7
緊張感 < 楽しさ
2025.1.7
緊張感 < 楽しさ
(“60だいをだす😎” 2025.1.7)
今日は、PGM世界ジュニアゴルフ選手権日本代表選抜大会のエントリー開始日でした。息子は来月で8歳となり、7-8歳カテゴリーにおいて、いわゆるチャンスイヤーです。
以下で記すように、息子が小学校に上がってからは、考えても考えても試合出場に対する思考経路はほぼ変わらず*1。でも、本人の意志を尊重しなければと思いつつも、息子に変わって私が判断するなら、日本予選に出たら良いかも、息子に勝たせたい、とふと思うこともありまして、パパが先走って、一昨年、昨年と、美浦ゴルフ倶楽部で数回親子ラウンドをセッティングしました。
私も強く同意する点で、試合出場に対する息子の論理を大人の言葉で表現すると次のようになります。試合に数多く出ていると「これが試合だ」という感覚が薄れてしまって「まぁいいや。別の試合で勝てば」となるので一つ一つの試合に緊張感をもって望めない。緊張感を奥底で感じながら思い描いたショットを打てるかどうかがゴルフでは大事。その緊張感ショットなるものの回数が試合に出れば出るほどある時点を境に減っていく(逆説的)。緊張感があるなかでどういうゴルフになったのか、それを得て練習に繋げ、次の試合に活かす。そこに試合の意義がある。
この説明は多分に私の影響を受けていそうです。私としては、これに加えて、低年齢ジュニアの試合で勝つことだけを考えると、日々の練習内容やゴルフそのものに対する向き合い方が今とは異なったものになると考えていて、出る試合は絶対に勝ちたい、と強い意志をあらわしている息子の希望に対して私が上手く寄り添えない、という悩みがあります。日々のゴルフライフが作業に近づき、まだ幼い息子にとって日々のゴルフが楽しめなくなるというのが、その寄り添えない最大の理由になります。
それと関連して、TPIのワークショップでジュニア教育の知見に触れたり、世代が上がっても上位に居続ける(あるいは上位にのし上がっていく)ゴルファーを丁寧に追ってみると、PGAツアーで優勝を飾るほどの若手プロのなかには、ジュニア時代、この低年齢ジュニアの試合で圧倒的な差で勝つために寄与するであろう練習に重き置いていなかった(意図せざる結果を含めて)ゴルファーが多数いる、というのがもう一つの背景にあります*2。解ではありませんが、ひとつあげるならまだ年齢が一桁台のジュニアにとっての“過度な” 反復練習は、表面上スイングを安定させたり、悪い動きを身体に覚えさせない点ではメリットがあるものの、身体の動ける範囲に制限をかけてしまい、後々この強制による違和感が生じたり、世代が上がってクラブを持った時に動かしたい動きを出すのが難しくなるというデメリットがある。それは他のトレーニングを積み重ねて身体能力を高めたとしてもどうにもならない。反復を通じた圧倒的なスイング量がそれを凌駕してしまうから。したがって、Collin Morikawaプロがおっしゃるように、多様なショットを要求されるラウンドでスイングを磨いていくことが大事となる。
試合に出続けて負けが続いたらカツが入る一方で、まだ幼いので自信を失うかもしれない。極端に言えば、試合に出るのは中学生、いや高校生あたりからで良いのではとも。逆にその時期になったら息子次第ですがビビらずバンバン出る。世界ジュニアの日本予選でいえば、15-18歳カテゴリーのみ。U6で勝ったってなんの意味もないよ、と周囲の声が私と息子に届いたことは数知れず。
要するに、試合に対する姿勢として息子と私が共通しているのは、今のところ出る試合を絞るということ。一年で複数の試合に出場したとしてもその全てが何かしら繋がっているのが理想です。例えば、USKidsが主催する試合のように。ローカルツアーでスコアを出す(同じツアーで3, 4回の試合に出場する必要がある)、そのスコア次第で地域のより大きなインビテーショナル試合に出れて、そこで上位に入ったりスコアが良いと(必須ではないがステータスが付与される)、年一回開かれる世界大会に出れる。その世界大会の成績はその後1年間のステータスにも影響し、魅力的なコースで開かれるインビテーショナル試合に出れる可能性がさらに高まる。年度を跨いでステータスが上下しながら11歳を迎えて、それ以降の試合はAJGA(全米ジュニアゴルフ協会)のポイントも付与される。ということで、参加人数が少ないローカルツアーといえども緊張感が高まります。しかも海外なので渡航費が莫大にかかるため、別の意味での緊張感が親に生じることに。息子にもそれが伝わる。一打一打の重みを感じるわけです。勝ちたい、勝たないと、という意識はもちろん生まれるわけですが、1位だけ(あるいは2位まで)が本戦出場、だからなんにがなんでも勝たねばという意識は生じず、日頃のゴルフライフも作業になりづらい側面があります。絶妙なバランスがあります。
さらに私の個人的な理由としては、今年5月にUSkidsのヨーロッパ選手権があるので、日本予選で勝つのが前提ですが、お金を払うなら一昨年訪れたサンディエゴ(しかもホールは違えど同じ会場)ではなく、訪れたことない本場スコットランドに行き、ゴルフについて何かを感じてきたい。息子が未就学児の頃から指導いただいている先生が長年おられた場所でもありますし。
IMGの世界大会に出れなくてもUSkids世界大会があるじゃん。いや、そうとも限らず。息子が来年のUSkids世界大会に出るためには5月のヨーロッパ選手権で上位に入る必要がある。でなければ、またお金をかけて、海外のローカルツアーに参戦することが求められる。それはそれで素晴らしい機会ですし、そこでも一打一打の重みを感じることができます。いやその前にヨーロッパ選手権での一打一打の重み。そう、キャディの私にとっても。
以上の話が昨日の夜までのこと。
今朝、「世界ジュニアの予選、出なくていいんだよね?」と息子に確認したら、「はぁ? 出るよ!」の一言。えっ⁈ というわけで本日、エントリーを済ませました。息子の気が変わってキャンセルする可能性もゼロではありません。それに私には息子がこの時期に“日本”予選に出て欲しくない理由が他にもありますので(ここに記す必要性を感じないので触れません)。
試合に出ると友達が増える。親として感じる最大のメリットがあります。試合を絞るとそのメリットを享受するのが限定されてしまう。ラウンドレッスンや試合などを除くと、息子がジュニアさんとラウンドしたのは、日頃アプローチ練習場で一緒に汗を流しているお兄さん、運良く平日ホームコースで出会った世代を代表するジュニアさん、そして2年前の世界ジュニアで縁を持ったお三方、です。日頃のゴルフライフに試合とは別の機会を息子に作ってあげたいと思いながらも、なかなか動けずに月日がだいぶ流れてしまいました。
試合のシビれる状況でショットを。試合以外の日々のゴルフライフに楽しさを。「試合に出まくれば、ぜんぶの試合で緊張しないでショットができるじゃん」「タイガーだって子供とき試合にいっぱい出てたんでしょ」「試合も楽しいよ」。今朝、こうした息子の表明もありまして頭が混乱しております。上述した緊張感ショットなるものの論理は破綻? 本質的なところでは同じことを言っているだけなのだろうか...
*1 前に引用させていただいたように、日本予選を主催されているIJGA(国際ジュニアゴルフ育成協会)の代表、井上透プロ自らが、低年齢?ジュニアが参加する試合について、こう説明されておられるわけでして。「ゴルフというのはゴルフコースとの勝負なんです。コースに勝てばいいのだから、試合に出る必要はない。ジュニアの時代の大会なんていうのは、早くたくさん練習したかどうか、の競争。練習していないプレーヤーは当然のことながら負けてしまう。ゴルフにおいて、負の体験、失敗体験は必要ない」。“試合に出る必要はない”。 本大会の最上位世代15-18歳であればまた別だと感じます。取材のなかで井上透プロが指摘する練習1万時間。ゴルフを遅く始めてもこの上の世代になる頃には1万時間に到達。“プロとしての特性や能力があるか” “才能がある”かどうか、その頃にようやく分かるということだそうなので。
*2 何度も本サイトで触れているCollin Morikawaプロの練習方法。 低年齢ジュニアで結果を残していても、その後伸び悩んでいるように見えてしまうのは、目に見えぬ怪我だけでなくこのラウンド以外の場で行われる反復練習(その反復の仕方にも哲学がありそうで議論が難しい)もあるのかなと。くどいですが低年齢に限った話です。 ちなみにCollin MorikawaプロはAJGA(全米ジュニアゴルフ協会)の試合で一度も優勝したことがないそうです(「ジュニアゴルファーが将来プロとして世界で成功するために重要なこと」, Golf Digest, 日本語翻訳編集)。この記事に興味深いインタビューがあります。Cameron Youngプロの父、Davidさんはクラブのヘッドプロ。USkids世界大会に息子さんが出場されていたときの一コマを振り返りながら、Collin Morikawaプロのジュニア時代に触れておられます。「当時、モリカワのスコアは大したことなかったんです。そして、ジュニア時代に圧倒的な強さを誇った選手の何人かは表舞台から姿を消してしまいました。...そういう少年たちはゴルフを楽しんでいなかったので、見ていて気の毒でした。親も子もゴルフにすべてを捧げて、まるで仕事のようでしたね。しかも、彼らは失敗に対処できるほどの年齢に達していなかったんです」。この記事には他のプロゴルファーの幼少期やそのコーチの話も記されており、ジュニアゴルファーが計測器を使うデメリットについても取り上げられています。書き手によると「コントロールされた練習環境に身を置き、計測器が示すヘッド軌道やボールスピードの数値に気を取られすぎると、ラウンド中に求められる問題解決能力が養われない」。だったらラウンドで腕を磨き、計測器を使うならラウンドで(も)。そんなことを記事を読んでいて感じました。