2023.12.22
あれは誰だ?
2023.12.22
あれは誰だ?
(初試合の場所で再び)
昨日(Christmas holiday)は強風が吹き荒れるなかで、息子が初めて試合に臨んだ場所、ムーンレイクゴルフクラブ 鶴舞コースでラウンドしてきました。3月の試合のときに食べたカツ重を注文し(私は身体が冷えていたのでラーメン)、さらに懐かしさが… 試合の光景が思い浮かびます。その試合の前日にも親子でラウンドしました。あのときと比べると、私もだいぶ上手くなったような気がします。
初試合、初キャディで私が試合中で一番驚いたのは同組のパパのお姿。明らかにそのまま打つとバンカーにキャリーしそうなケースであっても、パターを全く違うラインの方に合わせていても、何も言われずに「いいんじゃん、それで」みたいな感じで、とにかく息子さんに考えさせて回られていた。そのパパ、実はプロゴルファー。そのパパを目の前にして私は息子に対して本当に何も言えなくなってしまった。最初からすべて息子に任せることにしていましたが、勝ちをあまりにも意識していたので、正直、内心では余裕はありませんでした。同組で回られていたもう一人のお子様がお上手で、結果的にそのプロゴルファーの息子さん、学年が一個下ということで(この年齢では数ヶ月の生まれ月の差すらとてつもなく大きい)、2人のスコアと徐々に差が出てしまうことに。後半、ご本人はティーショットを打つと、自発的にボールまでダッシュしたりしてラウンドを楽しみながらも、常に2人のショットを凝視しておりまして相当悔しかったのではないかと想像します。うちの息子はIMGの大会で9位となったときその場ではニコニコしていましたが、ホテルに着くと目の色が変わりましたので。良い意味で。
こうした光景に出会うと(その後の海外試合でもそうなのですが)、この世界ジュニアゴルフ選手権日本代表選抜大会の開催にご尽力されておられている井上透さんの言葉が思い浮かびます(賢人の言葉が頭の中を飛び交う性格です)。井上さんが、ノンフィクション作家の田崎健太さんによるインタビューのなかで、ジュニアと練習量、そして試合との関係について語られております*1。記事が出された当初から拝読させていただいておりましたが、読み返すたびに発見がありますし、その都度、読者として受け取り方が変わります。まだ俺は何も理解していないなと。
「ゴルフというのはゴルフコースとの勝負なんです。コースに勝てばいいのだから、試合に出る必要はない。ジュニアの時代の大会なんていうのは、早くたくさん練習したかどうか、の競争。練習していないプレーヤーは当然のことながら負けてしまう。ゴルフにおいて、負の体験、失敗体験は必要ない。世界のトップクラスの選手はOB(アウト・オブ・バウンズ)を打ったことがないはずです。ボールが曲がった経験が少ない。だから緊迫した中でもボールが曲がるんじゃないか、と恐れることがなく自信を持って打つことができる。十分な練習を積んでいない段階での負ける経験はマイナスでしかない。ひたすら自分の技量を磨いて、スコアを縮めれば、突然大会に出て、日本一、世界一になれるのがゴルフなんです。野球で親が密かに練習をさせていて、いきなり高校3年生で登板してドラフト候補になるようなことは絶対にありえない。それがあり得るのがゴルフ」
ゴルフの場合、ジュニア時代に全く試合に出ずに、彗星の如く現れたゴルファーとして世界を席巻することも可能。こんなことを聞いてしまうと、うちの息子を世間の目に一切触れさせず(ゴルフの日常をSNSで発信しないで)、ジュニア時代の競争を避けるため(同世代で負けることを恐れて)、ゴルフの世界で名を出さずに(ジュニアの試合に出ず)、輝かしくデビュー、なんてことを考えてしまうわけです。ドラマチック? いやミステリアス? 私だけかもしれませんけど。でもそれは、単に表層的なイメージづくりでして、そもそもゴルフ(スポーツ)をする意味みたいなものを履き違えている感じもします。たとえ子供本人が早い段階から本気でプロゴルファーを目指していたとしても。
この記事で書き手の田崎さんが「1万時間に近い練習を積み重ねれば“プロレベル”になることができる。ただ、トッププロになれるかどうかは、1万時間に到達しないと分からない…」と井上さんのお話しを要約して説明するように、いくらジュニアの試合に出て勝ったところで、その子がプロ中のプロになれるかどうか分からないとなると、そもそもなぜゴルフをするのかという根本的なところに戻ってきてしまう。
井上さんが今なお世界ジュニア予選大会を毎年開催してくださるのも、単にプロを目指す場として提供されているわけではないことが容易に想像できます。特に未就学児や低学年だと何歳からゴルフを始めたのか、その練習量が試合結果に大きな影響を与える*2。ただ、十分な練習量を積んでいたのに負けてしまった場合、その感覚が子供にあるのであればゴルフのみならず他のところでも活きると思うし、練習が足りないと感じたのであればさらなる飛躍にも繋がると思うのです。だから試合に出る価値がある。そして、マッチプレーを除いて“対戦型ではない”ゴルフという個人競技だからこそジュニアが集まれる場が貴重であるとも言えるのかと感じます。チーム参加型の試合もそうですが。
先日、来年の世界ジュニア予選大会の告知がありました。井上さんのご尽力あっての大会です。さて、偉そうなことを言いながら、息子が一学年上のジュニアと試合に臨むべきか、頭を悩ませる父でございます。本人の意志を尊重しようと思います。今のところ。
*1 田崎健太「超一流ゴルファーが「子供の頃はゴルフが嫌いだった」と話すワケ:「1万時間の法則」が教えること」, プレジデントオンライン, 2020.03.18. このインタビューのなかで井上さんは「ゴルフが、同じ個人競技で道具を使う、テニスや卓球などと違うのは、対戦型ではないことです。テニスの錦織圭選手たちがIMGアカデミーに行くのは理由がある。強い相手と対戦することでしか掴めない経験があるからです。ゴルフはマッチプレーを除けば、そうではない」ともおっしゃっております。おそらく私がさらにゴルフを勉強してこのご説明の本当の意味を理解するときが来ると思うのですが、ゴルフはかなり特殊なスポーツであるとの印象を持っております。ちなみに、田崎さんの著作『球童 伊良部秀輝伝』(講談社, 2014)では、子供が特定のスポーツに取り組むことについて、また別の視点から考えを巡らすことができます。ニューヨークヤンキースでもご活躍なさった伊良部さんが子供の時から思い描いていた野球(大リーグで活躍すること)を通じて得たかったもの。
*2 若くて現在ご活躍されているプロゴルファーには未就学児から取り組まれている方が多いのも事実かと思います。年々若年化しているかと。今年の年間賞金ランキング上位でいうと、岩井明愛プロ、小祝さくらプロ、岩井千怜プロは8歳からゴルフを始められたそうですが、山下美夢有プロは5歳、櫻井心那プロ6歳、男子だと中島啓太プロは6歳(でも未就学児のころからアプローチエリアで遊ばれている)、蟬川泰果プロは1歳 ‼︎、金谷拓実プロは5歳、そして平田憲聖プロは7歳と小学生にあがる前後からゴルフに触れられておられます。詳細は、年間獲得賞金, 公式ウェブサイト; 日本女子プロゴルフ協会、ツアー部門別データ 2023, 公式ウェブサイト; 日本ゴルフツアー機構をご参照を。ジュニア時代から試合に沢山参加していたプロが殆どかと。出る試合ほとんど優勝していたプロもいらっしゃれば、逆にジュニア時代は全然勝てずプロで活躍されている方もいらっしゃる。