2024.2.1
物真似による技術の向上
2024.2.1
物真似による技術の向上
(学びの宝庫『文藝春秋』)
先日書いた「好き嫌いと感性」のなかで、丸山茂樹プロが小さい頃から物真似好きで、それがゴルフの上達に大きく貢献したことに触れました。スイングをイメージしてそれを実際の形として表現する力。
この物真似力。他のプロの飛躍も支えています。その筆頭が岡本綾子プロです。ご著書も多く、自伝もありまして*1、大人になって始めたゴルフでなぜここまでの成績を収めることができたのか、読むとなるほどと思う点が沢山あります。数あるなかからひとつあげると(ぜひ読んでいただきたい)、やはり冒頭で説明されておられる「アメリカへの憧れ」。当時は多方面から色々な意見が寄せられたそうですが、時代は違えど、やはり技術向上に努める背景には固有の理由がある。
岡本綾子プロ、数多くのインタビュー記事があります。私はほぼ集めて読みましたが、そのなかでも異質なのが、ゴルフを始めたときに指導したコーチによる回想録*2。そのコーチの名は岡本昭重さん(プロ)。名字が同じですが、お父様ではありません。岡本綾子プロが初めてゴルフボールを打つ瞬間を見ていたのが岡本昭重さんなのです。当時、岡本綾子プロは24歳なので、ジュニアゴルファーにどこまで参考になるのか分かりませんが(実はあります、詳細は注釈で)、貴重な文献です。岡本綾子プロが入社された池田カントリー倶楽部。そこに所属されいたプロが岡本昭重さん。岡本綾子プロをどう教えたのか。手取り足取り教えていない。
「ぼくはことばでは教えません。目で見て覚えろ、というのがぼくの主義です。見よう見真似、とにかく人の真似をしなさいと教えてきた」
丸山茂樹プロもお得意の物真似。小さい頃の農作業とソフトボールで鍛え上げた下半身のバネについて岡本昭重さんは強調されている一方で、この物真似力を意識的かつ後天的に身に付けさせておられた。具体的には、入社後すぐにキャディの仕事をさせて、スイングの善し悪しを判断させる機会を増やす。所属されている男性の練習生2人と常に練習させる。「…綾子はしょっちゅう男性のスイングを目に入れていたから、身体が男子のスイングのスピードを覚えてしまったんです。だから彼女は男のスイングをしていた」とのこと。当時周りを驚かせた飛距離の出るスイングはこうして培われたのです。継続性がおそらく物真似力を高める秘訣だと感じます。
プロゴルファーと継続的にラウンドするなんて息子にそんな恵まれた機会を与えることは出来ません。ゴルフという領域において小さい頃から感性という名の物真似力を磨くということであれば、継続的にYouTubeで有りと有らゆるゴルファーのスイングを毎日欠かさず見ること(もちろんレジェンドや今をときめくプロも)、レッスンの際にいただく自分の動画を繰り返し見ること(唯一ことばを介しますがレッスンそのものは感性を大事にされています)、そしてほぼ毎日私のスイングを間近で観察していること(善し悪しの判断材料)。
私はゴルフのみならず、他のスポーツの指導法に触れてから、ことばを介して教えることがいかに弊害を生むのかを理解してきたつもりですので、ことばを介して教え込むことは避けてきました。私がスイングに詳しくないのでたまたま教えることができなかった、という良き運にも恵まれて。丸山茂樹プロのお父様もおっしゃるとおり、低年齢期に理屈で教えたり、あるいは、悪い癖がつかない範囲でということでしたら別ですが、型にはめたりして生じる弊害がありすぎる。
ことばと身体表現というテーマは、コーチングにおいて昔から議論されてきたことで、ある程度、答えらしきものはあります。ことばが邪魔をすることがある。後々整理したいと思います。
*1 岡本綾子(1986),『AYAKO-A LIFE STORY』, 太田出版。すでに絶版となっていますが、こちらでも読めます。岡本綾子(2012),『岡本綾子 AYAKO-A LIFE STORY (人間の記録〈193〉) 』,日本図書センター. 日本経済新聞の名物コーナー「私の履歴書」でも執筆されおられます。プロから見た親御さんの話も… 岡本綾子(1986),『岡本綾子 情熱と挑戦: 私の履歴書」. 私の声が届かないのは重々承知していますが、アメリカツアーに挑んでいる日本の若手プロゴルファーにもぜひ読んだいただきたい。
*2 岡本昭重(1987),「“世界のアヤコ”はわが教え子」, 『文芸春秋』, 65 (14), p.182-188. 『文藝春秋』のかなり前の記事ということもありまして、国会図書館所蔵されているものをコピーしました。こういうことが好きなのです。岡本昭重さんの元から10人のプロが巣立っていったそうです。ご本人がおっしゃるとおり、そのなかでも結果として業績を残されたのが岡本綾子プロだった。なぜ差がついたのか。岡本綾子プロ並みに身体能力が高い人たちは何人かいたそうです。沢山の要因があります。明確な説明はないのですが、全文を何度も読むと、感性とか物真似力に着目すると以下のようになるのかなと。私なりのまとめです。記事の要約ではありません。岡本綾子プロは他のプロとは異なり、初めてゴルフをやるという状況で指導が始まった。すでに大人なので、ことばで教える事も出来たが、感覚的に岡本昭重さんはそれがダメだということを理解されていたので、「見よう見真似」を鍛えることに特化した。他の人たちはすでに技術を身に付けている経験者。ゴルフをすでに理屈で理解しようとしている。表現できるかどうか別にして。かなり高いレベルにおいては理屈にとらわれすぎることが飛躍の邪魔をする(この点はコーチングや身体表現の知見を理解する必要があります)。岡本綾子プロはゴルフについては真っ白な状態。ことばを通さず、ダイレクトにスイングを身に付けた。これからゴルフを始めよう、あるいは、始めたばかりというジュニアには大いに参考になります。とりわけゴルフに触れる時期が遅いジュニアにとっては参考になるどころか、それこそ岡本綾子プロの物真似をした方が良いかなと。時代が違うとは言われずに。