2024.1.30
好き嫌いと感性
2024.1.30
好き嫌いと感性
(骨格に沿ったグリップ)
前回、Nick Dunlapプロの幼き頃の動画を見て思い浮かんだことを書きました。ある分野で突出している大人は幼少期にその分野、その周辺において秀でていた。「ゴルフでいうと、身体が出来上がっていないが故にスコアに反映されない部分や特性、そこがずば抜けている」。
その一つが感性だと思うのです。感性を定義することすら難しいので、論理的に話を進められないのですが、プロの幼少期を振り返る親御さんやコーチの記事に触れると、感性という言葉が目立ちます。例えば、丸山護さん。丸山茂樹プロのお父様です。ウェブサイトで調べると、丸山茂樹プロがゴルフを始めたのは9, 10歳とあります。ただお父様と息子さんのインタビュー記事によると、始めたのは3歳、理屈で取り組まれ始めたのが10歳頃だそうです*1。この記事のなかで、物事に取り組む時期と感性について説明されておられます。
「日本の芸事というものは一子相伝で、4、5歳と小さいときから躾けられますよね。...囲碁将棋の世界では、5歳か6歳より前から始めていなければ、大きなタイトルは獲れないと言われて居います。これは言葉と似ているんですね。小さい子供にとって言葉は学ぶものではなく、感性で身に付けるものですが、13〜15歳を過ぎると理屈で覚えなければならなくなるのです。…ゴルフもアプローチやパットなど感性が必要なものは、早く始めたほうがいいのです。ドライバーなどは、力がつけばできるようになるから、後まわしでもいいんです」
丸山茂樹プロといえば、物真似がお上手、というイメージをお持ちの方々も多いかと思います。昔、メディアで沢山披露されていましたし、今でも健在です。丸山護さんはご著書のなかで、息子さんが小さい頃から物真似をしていたことに触れ、「物真似が上手いということは、器用であると同時に、感性がいいということでもある。ゴルフはイメージの競技の部分が強い。頭の中で自分のスイングを思い描いて、それを実際の動きとして表現する。まさに物真似と同じ理屈であり、こういう才能はゴルフをするうえで大きなアドバンテージとなる(p.23)」と説明されています*2。
お父様は、3歳の息子さんがプラスチック製のおもちゃクラブを振る様子と物真似力の高さに驚き、息子はとんでもなく才能がある、と確信したそうです。イメージ力とその実現力を支える感性(=感性?)、それが半端じゃない。感性に任せるといっても、子供に好き放題やらせず、3歳の時からお父様がグリップ、バックスイング、フィニッシュの位置などを全部教え込んだそうです。癖はなかなか直りませんから。
お父様は息子さんにゴルフに触れさせながらも、囲碁将棋や声楽家のプロにさせたかったそうです。でも、本人がなかなか囲碁将棋に関心を示さない。ゴルフはプラスチック製のおもちゃクラブを振り回すことに熱中し、楽しそうにやっている。同じご著書のなかで、「一流といわれる声楽家や棋士たちはみな、子どもの頃からその道一筋に歩み、並々ならぬ努力を積み重ねた人たちばかりだ」と強調されながら、「好きになれるのが上達の基本」ということで、ゴルフが好きであることを確認し、本格的にゴルフに取り組むようになられた。そのときが9歳。怪我や変な癖を避けることに加えて、好きなものを本人に選ばせようとした期間が6年間あったとも受け取れます。
日ごろ思います、わが息子は本格的にゴルフに取り組んだ時期が早すぎたのではないか、と。多様な選択肢のなかから本人が好きで選んだのがゴルフだったのだろうかと。得意なゴルフだから好きになるという経路もありそうですが、得意だからとりあえず続けるか、ということにもなりかねない。あるいは、得意だから他のことに取り組みづらくなる。なぜなら、そちらの分野ですでに努力を積み重ねている子がいるし、そもそも得意なのに今辞めたらもったいないから。
一流になれば本人は幸せになれる、とは思いません。ただ親としては考えてしまいます、本人の好きなものは何なのか、得意なものを息子に作ってあげようとする親心は息子にとって余計な心づかいではないかと。と同時に、父としての私が本当にゴルフが好きなのかどうか、自問自答してしまいます。
*1 丸山護(2005),『褒めて、導く。』,青春出版社. ご著書にも、9歳までは本格的なゴルフの練習は一切させなかったとの記述があります。理由は、「ゴルフは筋肉に大きな負荷をかけるスポーツだけに、体がまだできていない子どもに無理やりやらせて、変な癖がついたり、体に障害が出るのが心配」だったから。「あえて我慢した」そうです。9歳まで柔軟性と感性を磨くことを徹底。お父様はその間、ご自身のゴルフ技術の向上に努め、子どもへのゴルフ指導方法を研究したそうです。
*2 ゴルフダイジェスト社(2015),「レッスンの匠:親と子の至福のレッスン」,『Choice (チョイス) 夏号 2015年 7月号』,ゴルフダイジェスト社; 季刊版, p104-106. 記事には他にも多くのプロと親御さんとの話が掲載されています。例えば、手嶋多一プロ。ゴルフを始めたのは公式には7歳となっているそうですが、実は5歳だった、という話から始まります。こういうプロが多いような気がします、実際はもっと早くゴルフを始めている。丸山茂樹プロもそうでした。「本格的に」の意味が人によって解釈が異なるのかと。で、手嶋多一プロのお父様、啓さん、活躍されている息子の姿を見ていて嬉しいのが、「息子が関係者やメディアの人、ファンにも好かれるプロになってくれた」こと。手嶋多一プロは小学2年生の時、すでにメディアの取材を受けるほどお上手だった。お父様は息子さんが小学3年生のときに練習場の経営を始めたそうです。丸山護も手嶋啓さんも、プロゴルファーではないのですが、ゴルフを愛しており熱心です。子どもにはその姿がプレッシャーとしてではなく、愛としてジワジワと伝わっていそうです。