2025.2.6
眼差しを送り続ける人
2025.2.6
眼差しを送り続ける人
(マン振り、クロスってる)
本日は薄暮ラウンドを急遽キャンセルしてレッスンを受けに行きました。昨日のラウンドで「球がつかまらない!」とブツブツ言っていたので先生に見ていただくことに。昨日の球筋を見る限り、そんな気にするものでもないと感じたのですが、そこは生粋のドローヒッターですから。
グリップを調整したら一発で元通り。その後何発打っても綺麗なベービードロー。親子で喜ぶと同時に、私には「見えていない」のだなと思い知らされました。昨日のラウンドでもボールの位置やアドレスばかり目がいっており、グリップには一度たりとも違和感を抱きませんでした。先生に看破されたように、息子はアプローチで球をあげるのが大好物で猛烈な量をこなすので、徐々にそれがしやすいグリップになり、すべての番手がそうなってしまう。
「見ること」について考えたときに一冊の本が思い浮かびます。鈴木忠平さんの作品。日刊スポーツ新聞社で中日ドラゴンズ監督時代の落合博満さんを8年にわたって取材。週刊誌で連載した記事を再編集して新たに生まれたのが『嫌われた監督』です*1。
就任2年目の落合監督が、当時末席の記者だった鈴木さんに近寄ってこられる。この業界ではあり得ない出来事。そして「見ること」について落合監督が一対一で語り始める。
「ここから毎日バッターを見てみな。同じ場所から、同じ人間を見るんだ。それを毎日続けてはじめて、昨日と今日、そのバッターがどう違うのか、わかるはずだ。...一年間続けてみろ。そうしたら選手のほうからお前に訊きにくるようになるはずだ。僕のバッティング、何か変わっていませんかってな(文庫版 pp.78-79)」
本書の骨格にあるお話です。最終章 (12章 "荒木雅博: 内面に生まれたもの")で再度その光景が記されます。あれから6年ほど経ったとある日。記者として、おそらく人として信頼を獲得していた鈴木さんに落合監督が「見ること」についてまた別の角度から語り始める。
「俺は選手の動きを一枚の絵にするんだ。毎日、同じ場所から眺めていると頭や手や足が最初にあったところからズレていることがある。そうしたら、その選手の動きはおかしいってことなんだ(文庫版 p.466)」
落合監督といえば試合中ベンチの奥でずっと表情を変えずに選手たちを見ているシーンが印象的です。荒木選手をセカンドからショートにコンバートした理由。鈴木さんはそれを紐解きながら、「見ること」の本質についてこう表現されておられます。
「何より、落合に見られることの怖ろしさが迫ってきた(文庫版 p.467)」
息子は私に対して怖ろしさを微塵も感じていないでしょうけど、誰よりも息子のスイングを見てきた人間です。私も横で振っているので常に凝視しているわけではありません。でもラウンドでのスイングは全て見てきたのです。この子の癖も含めて、変わらない部分(これが高次元での再現性につながるはず)もはっきりと掴んでおります。偉そうな物言いになりますが、ここを変えたら短期的には結果が出るけれど将来的に崩壊するだろうなという根拠なき予感もあります。
「見ること」については松山英樹プロも詳しく説明されておられます*2。昨日良くてなんで今日こんなんなるって多いよね、その辺のコントロールというのは? との問いかけに対して、松山プロは次のようにお答えになっています。
「そういうのはコーチが大事なのかなって思いますよね。1日1日のズレをやっぱ多少ズレているところを見抜くことがコーチの仕事じゃないですか。それは付けたからといってそんなすぐに結果に表れないじゃないですか。...崩れる傾向とか 3年から5年ぐらい見てもらわないと」
私は技術的にどうこう判断できません。こんな言い方は失礼ですが時間的にも量的にも私に次ぐ先生(&同じ場所で先生と一緒に見ていただいているもう一人の先生)は息子が3歳の頃から、また、会長とHプロには直接レッスンという機会は稀でしたが4歳の頃から少し離れたところで見続けていただいております。自分が見てあげられたらな、と常々感じておりますが、たとえ私がツアーで賞金王をとるようなプロゴルファーであっても教える経験ゼロですから私的には息子への技術指導は躊躇してしまうかなと思います。
技術指導できない父ならば、ズレを見抜く力を養いたい。4年近く息子のスイングを見続けているのに、昨日のラウンドでもズレを見抜けませんでしたから。
*1 鈴木忠平(2021),『嫌われた監督:落合博満は中日をどう変えたのか』, 文藝春秋(文庫版, 2024年). 眼に見える数字ではわからない部分を見る。プロ16年目を迎える荒木選手に落合監督が伝えたこと。「心は技術で補える。心が弱いのは、技術が足りないからだ」。青木功プロの「体技心」とも共通する部分かと。青木プロのご著書はたくさんあります。特にこれは実践的。 青木功(2008), 『俺の健康自慢』, 角川グループパブリッシング). 健康法について。今、最も私が必要としていることかも。第5章もぜひ読んでいただきたい。
*2 "【必見】松山英樹プロが一番スイングで気を付けていること【松山英樹 密着#7】," YouTube; ALBA TV, 2024.8.11. 松山プロが大事にされているのは、自分の感覚と動きをチェックすること。松山プロはご著書で、「自分なりに分析することで考える力をつけていったようにも思う」と述べているように、お父様から技術指導を受けてたとはいえ、"自分自身を「見る」力"を鍛え上げていったように感じます。ここからは私の飛躍になりますが、このプレイヤーの感覚は自分だけなく他者もある程度理解できると思うのです。体感はもちろん不可能。共感は可能。その他者がプレイヤーを観察し、対話を重ね続けているのであれば。親であってもコーチであっても。長年時間を共にすることが必須。そして落合監督のように定点観測。