2024.2.6
愛のあるアスリートゴルファー
2024.2.6
愛のあるアスリートゴルファー
(学生に戻った気分)
昨日夜、TPI(Titlist Performance Institute)のJunior Level 2を修了しました。Level 1では動画とテキストについて日本語版がありました。Junior Level 2は(Level 3まであります)、すべて英語で、最後のテストのみ日本語も選べるのですが、翻訳がこなれておらず英語でやるしかないということもありまして、まるで英語の試験を受けているような感じでした。
おそらく設問はランダムに出題され、個々人に最適化された問題が用意されるのかと思います。私が解いた設問のなかには、なんとHerbert Simon氏に関連付けられたものがありました。ノーベル賞を受賞したHerbert Simon氏といえば、私が学生時代に授業の指定テキストとして読んだ『Organizations』の著者で、経営学の分野においてはMarch & Simon (1958)という形で、今なお学術論文で頻繁に引用されています*1。Herbert Simon氏がゴルフ、しかもジュニアへのコーチングという文脈で登場したのには正直驚きました。専門領域外のところで参照される研究。アメリカらしいといったら語弊があるかもしれませんが、Junior Level 2のテキストには学術論文が数多く引用されておりまして、なぜこの時期にこういうことに取り組まなくてはいけないのか、データと学術的知見をもとに説得しています。本ウェブサイトで今後、息子の様子を通じてそのエッセンスを共有します。
内容は盛りだくさん。その一方で、もっと知りたいこともありました。例えば、ジュニアゴルファーが使用するクラブについて。最後の最後の方で、「5歳から9歳までのジュニアは4本のクラブでスタート。ドライバー、7番アイアン、サンドウェッジ、パター」「クラブは長さは適正に。カットせず」「ロフトは多めで、絶対にヘッドは軽く」との説明があります。もちろん小さい頃からクラブを振り回し続けることによる身体への負荷、という点を考慮しています。でも、ジュニアが成長するプロセスで具体的にどのように道具選びをしていけば良いのか、長年にわたるジュニアへの指導経験を通じて得られたデータをもとに説明して欲しかったなぁと感じます。スイングづくりに14本はいらない。初めの段階は、ウッド、アイアン、ウェッジ、パター、それぞれ特性の異なるクラブ一本に固定して、動作を繰り返してスイングづくり。とはいっても、なによりも楽しくゴルフ、が基本。
これを踏まえると、USKIDSのウルトラライト・シリーズはその考えにぴったりですし(そもそもフルセットが用意されていない)、USKIDSのCertified Coachでも同様の説明があります*2。とにかく、軽くて、長さと硬さが適正、ロフト多め、がスイングづくりには最適という考え方。自分で担げないバックは中身が重すぎる(自分自身に言い聞かせています)。アメリカでジュニア指導しているコーチの多くはこのTPI Junior とUSKIDS Certified Coachの考えをベースにクラブ選びを親に伝えている。両社はジュニアに関する相当なデータを蓄積しています。オンラインで直接確認しました。その点はFLYNN GOLFの開発担当者さんともオンラインで話しましたが、その時系列データの量はびっくりするほど。ただ、私もそうですが親としてはジュニアクラブを持たせようとはならない... 日本を問わず。小学生でも高学年?(それより先?)になれば話はまた別だと思います。
Junior Level 2のフィロソフィーは、アスリートを育てその上で強いゴルファーに、そしてなによりもゴルフに対する愛を深める、というもの。愛を育みながら、まず、どうアスリートを育てるのかに焦点を合わせている。もちろん私もその通りだなと思います。現在のPGAツアーやLIVゴルフ、LPGAツアーで優勝する選手のほぼ全てがアスリートですし、YouTubeやインスタを見るとプロになった後もフィジカルトレーニングに取り組まれている。ただなんとなく違和感を抱きます。TPIではジュニア世代を4段階にわけてそれぞれの身体トレーニングとゴルフレッスンについて整理しているのですが、特に初期(男女で異なりますが8歳ぐらいまで)において多様なスポーツに取り組みながらも、単調なトレーニングを子どもに課すことが。ゴルフのために他のスポーツをやる、ゴルフのためにこういうトレーニングをする、ゴルフのためにこれはやらない、という考え方と接し方が子どもの自主性やゴルフの楽しみを弱めてしまうのではないかと。
TPIではもちろん、楽しさ、を第1に据えて、グループトレーニングや単調にならない工夫を紹介しています。前にも本ウェブサイトで触れましたが、15歳の時、中島啓太プロはトレーニングをほとんどしていない。息子は小学生。そこまでする必要があるのかと。本人が心底プロゴルファーを目指しているなら別として。そうは言いつつ、親と一緒にトレーニングしますけども。
TPIがさすがだなと思うのは、バーンアウト(燃え尽き症候群)や後々伸び悩む要因、そして途中でプロを目指さない選択肢などについても言及している点。カレッジゴルファーで超優秀な成績を収めていてもプロ転向しないでビジネスの世界や学術世界に進む子もいる。多様なスポーツに触れる意義は、ゴルフのために、という前提で接しないことに意味があるとも受け取れます。やはり我が息子はゴルフに取り組む時期が早すぎたかなと反省してしまいます。
次は、Golf Level 2を受講します。バンドル購入しましたので。ライセンス維持(年会費)もそうですが、TPIはビジネスとしても参考になるところが盛りだくさん。これまで2つのコースを受講していて悩むのは、この知識をどう活用すれば良いのかということ。TPIがゴルファー本人を主対象にしておらず、ゴルファーとしての私が、じゃあ今日からこれに取り組もうとはなりづらい。やはりコーチが必要です。また、USKIDS Certified Coachとは異なり、ジュニアゴルファーを持つ親に向けてコースを提供しているわけではありませんから、ゴルフ指導経験ゼロの私がすぐさまコーチングできるわけもない。あくまでも沢山のゴルファーに寄り添う方々に向けての座学。
Junior Level 2の冒頭でTPIの共同創設者Greg Roseさんが強調されておられるのは、数多くのゴルファーに接するコーチとは違って「親にとって初めてその子をゴルフに触れさせる、ただ1回だけの機会」。そう、後戻りができないのです。こうすれば良かった、次の子にはこうしよう、というように。
*1 March, J. G., & Simon, H. A. (1993). Organizations. (2nd ed.). Cambridge, MA: Blackwell (高橋伸夫訳, 『オーガニゼーションズ 第2 版: 現代組織論の原典』,ダイヤモンド社, 2014). 初版は1958年。
*2 Training, 公式ウェブサイト;U.S. Kids Golf.