2023.12.17
「負け」と天才
2023.12.17
「負け」と天才
(移り住みたい...)
本日息子は久しぶりに親以外とのラウンドでした。試合やその練習ラウンドを除くと6月以来、今回が5回目。うち2回が今回のお相手です。ご一緒させていただいたのはIMG Academy Junior World Golf Championships のチャンピオン。カテゴリーは違いますが、7月に息子もチャレンジした大会です。本人が望んでいた結果が出ず、シード権は全て欧米勢。帰国後は目の色変えてゴルフに取り組んでおります。
競技人口が増え、層が厚くなったカテゴリーで欧米勢を圧倒したお相手は、このチャンピオンシップの予選(U6)が3月、ムーンレイク鶴舞で行われたときに、会場に集まっていた親御さんが、「?くん、(鶴舞とは別会場で)勝ったって。また代表だよ、天才だね」と言われていたそのご本人です。その日何度も、「?くん、天才」「天才、?くん」「?くん、天才」…という言葉が会場を飛び交っておりました。私は初めて試合の会場に来たので、緊張しっぱなしで、まわりの親御さんに声がかけれれない状況が続いていたのですが、天才という言葉にビビッときまして、天才とは何か考え始めまして緊張が徐々にほぐれていきました*1。
で、天才、という言葉で何人かの著名人の顔が思い浮かぶのですが、そのお一人に、先日紹介した熊川哲也さんがいます。そう、最近のテレビ出演で「生まれた時から開花してます」と自らを表現されたバレエダンサーです*2。2,3歳からバレエの早期教育を受ける子もいるなかで、熊川さんが始めたのは10歳。真剣に取り組み始めたのは中学2年生。全国舞踊コンクールのバレエジュニア部門に出場し9位、翌年は4位。「私がバレエを選んだのではない。バレエが私を選んだのだ」とおっしゃる初の自伝で以下のように説明しておられます。
「今となっては、あの時いきなり優勝などせずに良かったと思う。優勝していれば、“バレエなんてこんなものか”と天狗になってしまい、その後の進歩が鈍ってしまっただろう。実際、一番でなかったことが僕の生来の負けず嫌いを刺激した」
それをきっかけに毎日バレエをするようになり、“退屈な基礎練習などは省略”して、ジャンプばかりやっていたそうです。どの子よりも高く飛ぶために。
今回のラウンドも私が懇願して実現。実は最初にお会いしたのは1回目のラウンドではなく、世界ジュニアの代表事前合宿でした*3。初日のイベントが終わり、ホテルの部屋から外を見ると、レンジで練習している親子のお姿が。他には誰もいません。息子に、外見てごらん、と促すと、本当だ、僕もやる!と言って、私の思惑通りクラブをもって外に出ることに。お邪魔にならないように、打席をあけて練習開始。初めてスイングをみて、そういうことかと納得すると同時に、他の子がいない… その?くんだけ(もっと遅い時間に練習していたお兄さんお姉さんたちがいらっしゃったかもしれません)。
今日のラウンドでもグリーンを狙うショットを2人で間近に眺めて、すごい! と何度声をあげたことか。でも、?くんは、そのほとんどに満足されていないご様子。最終18番ホールでは難しいライン(?くん、左向きすぎだわ、と私が思っていたら)、私の想像上のラインとは異なるところを、そこに溝があるんじゃないかと思わせるような転がりでカップイン。ラウンド後はすぐさまパッティンググリーンへ。合宿を思い出すかのような光景でした。ただ合宿の時とは違い、息子は疲れた様子でホールアウト後、そのまま帰路へ。
?くんはIMG世界大会、3度目の挑戦(3度も挑戦できること自体凄いのですが)でチャンピオンに輝いたということを渋滞中のクルマのなかで思い出しまして、熊川さんの顔がふっと浮かびました。「負け」という言葉と、「バレエが私を選んだのだ」という言葉とともに。
*1 天才、という言葉で真っ先に思い浮かぶのは、田中角栄さん。石原慎太郎さんが書かれた『天才』(幻冬舎, 2016)。圧倒的な努力。
*2 以下の記述は、熊川哲也(1998), 『メイド・イン・ロンドン』, 文藝春秋.
*3 代表事前合宿で国際ジュニアゴルフ育成協会の計らいで息子がラウンドさせていただいたさらに上の世代のお兄さんのお一人は(親以外とのラウンドで初)、U6から数々の世界大会で優勝されており、今もバンバン優勝されていらっしゃいますので、最初の段階でからなずしも負けが必要というわけではなさそうです。ただ、ラウンドの際にそのお兄さんからお話しをお聞きしましたが、それと同じような意味をもつご経験をされておられました。またもう一人のお兄さんからは、中学生以降の世代で秀でる意志というか考え方みたいなもの、それに具体的な取り組み方を学ばせていただきました。お二人とも結局、「負け」と同じ意味をもつものを早い段階でご経験されそれを活かされたように感じました。