2025.9.29
大学に行かずに頂点を
2025.9.29
大学に行かずに頂点を
(オフサイドのルール、理解しているのだろうか)
大学を中退して、あるいは、大学に行かずに、男子ツアーの世界で頂点に登り詰めたプロたちがいる。
前者(大学中退して)について、個人的にはTiger Woods プロやJordan Spiethプロの名前が思い浮かぶ。
後者(大学に行かずに)については、やっぱりRory McIlroyプロ。ただRory McIlroyプロは大学進学予定だった。Rory McIlroyプロがかつてアメリカの "ある大学" の入学誓約書にサインしていたことは、若かりし頃、試合前後のインタビューで取り上げられていた話題。
その経緯について、Fox SportsのAaron Torresさんが関係者に取材した上でまとめておられる*1。断片的な説明記事は他にあるけれど、ストーリーとしてもこれ以上のものはない、と思う。以下、テーマと直接かかわるところの要約です。記事は2015年。
East Tennessee State University(ETSU)のゴルフ部で29年間ヘッドコーチを務めてきたFred Warrenさん。就任前、ゴルフ部は3年間休部状態。まずは学生のリクルート活動を始める。アメリカ国内だと将来有望な高校生ゴルファーは軒並み強豪校を選ぶ。そこでリクルートの対象をヨーロッパに向ける。そのひとつがアイルランド。
アイルランドのゴルファーとして最初に入部したのが、のちにMcIlroyプロのキャディを務めるJohn Paul Fitzgeraldさん。それ以降、アイルランドとパイプができる。そこから1人の名前が浮かび上がる。それがRory McIlroy青年。当時15歳。Fred Warrenさん曰く、「 "1ホールだけ見てチェックしよう" と思って行くんですが、Rory を見始めた瞬間、単に才能があるだけじゃないことに気づいた。歩き方、立ち振る舞い、すべてが違う。気づいたら18ホール全部、見続けてしまってたよ」
その後、Rory 青年ご本人はアイルランドから渡米した先輩がいるETSUに行くことを決意。Fred Warrenさんは親御さんとも話をつける。当然のことながら、他の大学から数多くのオファーが届く。獲得すべく、例外を設けて全額奨学金をRory 青年ために用意する名門ゴルフ部。ただ全部お断り。Rory 青年はETSUを訪れ、正式にサイン(そのNational Letter of Intentは現在ゴルフ部の練習施設内に飾られている)。大学はプレスリリースを出す。Rory 青年(2005年秋)はサイン後もアマ大会で好成績を出し続ける。入学まであと数ヶ月と迫った頃、全額奨学金で迎え入れるには直前で断られてはと困ると語るFred Warrenさんに、Rory 青年はつげる。
「コーチ、こうしましょう。僕は行くつもりだし、計画もある。でも、奨学金は他の誰かに譲って、僕は自分で費用を払うよ」
すでにこの時、本人の意思は決まっていた。結局、どの大学にも進まず、2007年にプロ転向。2009年にはツアーで初優勝、2011年に全米オープン制覇。
ちなみに、Fred Warrenさんが「この選手は何かが違う(a guy was just different)」と直感的に感じたのは、その後も含めた長いキャリアのなかでほんの数回しかなかったそう。そのひとりがTiger Woodsプロ。対戦相手としてStanford Universityのメンバーの1人として同組で回った時の印象について。書き手のAaron Torresさんのまとめによると、"その立ち振る舞い、プレースタイルにも圧倒された。Woodsは自信に満ちた歩き方をし、恐れを知らずにボールを打つ。若手選手としては異例の攻めのゴルフで、Warrenがこれまで見てきた誰よりも突出していた" Fred Warrenさんご自身はFoxのインタビューにおいて、当時Tiger Woods青年のプロ転向後の活躍を期待していない、眉唾物として捉えていた人たちに対し、以下のように表現しておられる。
「君たちはこの男を見たことがないんだろう。彼は他とは違う。体のつくりからして違う。すべてが違うんだ」
"体のつくりからして違う" 他にもすべてが違うわけですが、Fred Warrenさんが目を向けておられるのは、体。ここからは多少の根拠ありの私の推察ですが、単にデカい(太いを含む)、という体じゃなくて、見る人が見れば分かる体の特性があるのでしょう。その当時のTiger Woods青年は線が細いように見えます。デカさじゃない。トレーニングしているとはいえ、中高でそのままの体でプロの世界に飛び込むのかと。試合に出続けながら、結果を出さなければ試合数が減り、プロのセッティングでゴルフができなくなる。結果を出し続けながら体をさらに作り上げる必要がある。まだ体に不安があるから大学でつくろうかな、でも結果が出ちゃってるんでプロに(中退)、という流れがなんとなくあるような気がする*2。
そんなことを考え、いつも通り息子に伝えたら、「今日は下半身を鍛えてきたよ」と。今日は東宝調布に行くつもりだったのに、学校のクラブでサッカーの練習試合に参加してきた息子。チームのメンバーに選ばれたとのことですが、なにかの間違いでは。休み明けでメンバーが集まらなかっただけでは、と言ってしまったら息子が可哀想かな。毎日サッカーに触れている子に比べると、当たり前ですけど圧倒的な差。周りから突き放されても本人はサッカーもやりたい。昨日の夜、今日の朝と、本人が強い意志表明を行いまして、ゴルフの時間がなくなるから行くな、とは言いづらい。
家に帰って、大学中退の話やRory McIlroyプロのことを息子に伝えていてふと感じたのは、こんな考えを共有してしまったら、ゴルフに限定すると息子は大学に行くメリットを見出せなくなるんじゃないかなと。で、息子「日本にいるならアマの方がマスターズとか全英に出やすいんじゃないの。アマだと海外のトッププロと回れるじゃん。日本でプロになったら向こう(注: アメリカ)の一番上(注: PGAツアー)でプレーするまで時間かかるんじゃないの」。
よくわかっております。アマにこだわりを持ち続ける8歳児。
*1 Aaron Torres (2015), “That time Rory McIlroy almost enrolled at East Tennessee State,” FOX SPORTS, 2015.6.17. 大学の知名度とか設備の充実度とかが最優先事項ではなかったRory青年。同郷の先輩とのつながり。ちなみに他にもFred Warrenさんが現場を見てまわって、こりゃ別格! と感じたのは、Sergio Garcia青年とBrandt Snedeker青年だったとのこと。Fred Warrenさんは、若者の力を見る時に "立ち振る舞い" を重視する。具体的に言葉にできるものなのだろうか。
*2 アメリカPGAツアーやカレッジゴルファーの現場を見続けていた舩越園子さんは、アメリカでプロ転向の若年化が進んでいる現状に対して(6年前の記事)、次のように指摘されている。「…焦りは禁物だ。ショートカットが必ずしも成功への近道になるとは限らない。今こそ、温かく適切な指導が求められていることを、周囲の大人たち、ゴルフ界の先人たちが自覚すべきときではないだろうか(舩越園子 (2019), “世界で早期化するプロ転向、成功への近道?【舩越園子コラム】,” ALBA Net GOLF, 2019.9.23)」。記事では、大学に進学せずに若くしてツアー優勝を掴んだチリのJoaquín Niemannプロに刺激を受けたAkshay Bhatiaプロについて取り上げている。Akshay Bhatiaプロは高校生の時、Valspar Championshipに推薦で出場。予選CUTだったもののそこで「戦える」と感じて大学進学ではなくプロ転向の意思を固めたが、それでも最初は不安を感じていた。アメリカPGAツアーの試合にアマで出てからのプロ転向。今の男子ジュニアゴルファーのなかには、大学進学=保険をかける、ことじゃないことを十分に理解している子も多いはず。