2024.7.9
「遊」としてのクラブ選び
2024.7.9
「遊」としてのクラブ選び
(大人のヘッドは飛ぶ)
週明け、新しいクラブが家に届いたので昨日に引き続き、今日もテストしました。TrackManで計測すると、候補であったFlynn LTXは息子のヘッドスピードだと高さもスピン量も不足しておりました。USkids Tour 51のアイアンはスピン量が凄まじい。高さも断トツ。飛びませんけど、確実にグリーン上にキャリーでビタと止まる。LTXを使いこなすにはまだまだヘッドスピードが足りない、というのが私の結論です。
息子は「打感がめちゃくちゃいい。音も好き」と言っておりまして、使う気、満々です。さらに、ウェッジは芝でも試したいということで、そのままアプローチ練習場に行って打ち込んできました。「おっ、プロみたいな弾道!」「めっちゃ打感いい」と息子。こちらも気に入った様子。芯を捉えると、気持ちの良い音が私の耳にも届きます。
ただ、クラブの性能を引き出すのにヘッドスピードが足りないと感じます。バランスが良いのはUltralight 48。アタックアングルのマイナス量が一番多いのがUltralight 48。他はヘッドが重いから? 選んだシャフトのスペックもあり、多少重くてもヘッドスピード自体はそれほど変わりません。息子は、Ultralight 48は初心者が使うんだ、と徐々に捉え始めており、今のところ選択肢に入っていません。比べるとウッド系も飛びませんし。高さも出るし、飛距離も十分だと思うのですが、試合、特にロングホールで...
Tour 51の7番アイアンだとスピンは6000回転ほど、最高到達点は14ヤード台、着地角は41度前後。この数字を出すために、アイアンのヘッドがあのような形状になったんだなと。見た目なんて慣れだから、とは思うのですが、息子はなかなか慣れないようで。シャフトも若干長くて握りづらい、振りづらい、という点もあるのでしょう。
最近はクラブ選びに親子で悩んでおりまして、スイングづくりに殆ど目がいっておりませんでした。ただ、怪我の功名(迷走という名の災難)とでも言いましょうか、良いこともありました。スイングに対して険しい表情を父が浮かべておらず、リラックスして遊びのようにボールを打ち込んでいたせいで息子の表情が柔らかで、よく見るとスイングが結構良さそうなのです。
仕事上の私の大先輩が最近取り上げていた『熟達論』*1。著者は、“走る「哲学者」”、為末大さん。熟達を探究するプロセスを5段階に分けて説明されておられます。最初の段階は「遊」。面白がる感覚がまずは必要で、その後に「型」、「観」、「心」、「空」と続く。遊びは不規則さを生み出すので、完全な予測は不可能。自分で意図通りに動かず、結果が予想できなくなる。この「遊」が探究のプロセス全体において大きな役割を果たすそうです。学生時代に優れた成績を収めていても伸び悩むアスリートや、燃え尽きてしまうアスリート、逆に学生時代にパッとしていなくてもその後歴史に残ったアスリート。こうしたアスリートと接してきた為末さんは「遊」の重要性を強調されています。
新しいクラブでどんな球が出るのか分からない。打ったあとに二人で「おっ!」とか「へぇ〜」とかなる。クラブにも慣れていないから、不規則さが満載です。為末さんが論じる「遊」の本質とはだいぶかけ離れている感じがしますけど、とにかく面白がる感覚はありました。スイングについて、あーだこーだ、親子で言う雰囲気にはなっていません。息子自ら色々と試して感じている。データだけでなく自分の感覚と向き合って判断しようとしている。「主体的であり、面白さを伴い、不規則なものである」というのが為末さんの「遊」の定義になります。さらに上のレベルで遊ぶためには、次の段階「型」が必要だと論じておられます。「型」とは、「土台となる最も基本的なもの」。要するに、基本動作。本書のなかでもとりわけビビッときましたので引用させていただきます。
「型が創造性を壊すと言われることもあるが、実際には型ができるとそれを土台に表現できる範囲が増える。もっと言えば、その技能を駆使することで新たな表現を思いつく。...考えずに無意識でできる領域が広がれば、割いていた注意を別に割り振れるようになり、さらに豊かな表現ができるようになる(p.81)」
ハードルよりも、ゴルフは熟達の探究プロセスにおいて道具が果たす役割が大きいと思います。道具選びは段階が進んでいった後も「遊」を従えてやってくる。
為末さん曰わく。「遊」に始まり、「遊」に戻る(p.209)。
*1 為末大(2023),『熟達論:人はいつまでも学び、成長できる』,新潮社. 「型」を論じておられるところで、私が息子とゴルフを始めてからずっと頭の中にへばり付いている「癖」について興味深い説明があります。「...もう一つ、癖は単独で存在するのではなく、行為全体の流れの中に、さらには環境の中に組み込まれている。だから何か一つだけを後から変えることは全体のバランスを崩すことにもなる(p.84)」。ゴルフでいうと、一般的にスイング上(もしくはパッティング上)悪い癖と思われているところを修正しようとして悪化するとか(“昔の方が良いスイングをしてたじゃん”という言葉にあらわれる)、元に戻れなくなるとか... 為末さんは続いて、「型」とは良い癖だ、と捉えて、「だからこそ、身につける最初の時点で基本的な型を自分に癖づけることが、後々有利に働いていく(p.85)」と、基本動作を早い段階で繰り返して定着させる重要性を指摘されておられます。それに触れてしまうと、多少ヘッドが重くても良いかなと思っていた私は頭を悩ませてしまいます。また迷走...