2024.3.11
アントレプレナーの育て方?
2024.3.11
アントレプレナーの育て方?
(親が介入しないと良いのですが)
息子が風邪のため、ゴルフをしない週末となりました。私も体調が優れないので一歩も外に出ず。子どもへの教育という点で面白い本を読みましたので共有します。
その本のタイトルは『A Woman Makes a Plan: Advice for a Lifetime of Adventure, Beauty, and Success』*1。『72歳、今日が人生最高の日』というのが翻訳版のタイトルで、さすがプロの技だなと感じます。私が人生計画を改めるために購入したのではなくて、子育て論、さらに言えばその具体策を学んでみたいなと思ったのがその理由です。著者はMaye Muskさん。雑誌『Vogue』などでも活躍するモデルさんで、現在75歳。TESLAやSpaceXの経営者、Elon Muskさんの母としても知られているお方。
我が息子は最近、Elon Muskさんの名をしきりに口にして、なぜTESLAはガソリンのクルマを作らないのか?、どうやって自動でクルマを動かしているのか?、なんでElon Musk(さん)は色んなことを同時に出来るのか?、ロケットを作るためになんで凄い人が集まるのか?、なぜロケットを電池で飛ばさないのか?、上場ってなに?、などなど、関心が日に日に高まっている。言葉は曖昧ですけども、コンピューターサイエンス、AI、工学、物理、材料工学の知識がないと、世界を驚かせるようなことができないと本気で感じている様子です。Elon Muskさんの生い立ちや、これまでの事業活動や現状は私も触れてきました。その人としての本質的なところを知りたいと、息子につられて関心が益々高まってまいりました。Elon Muskさんの公式伝記やご本人を取り上げた記事などは前々から読んできました。ただお母様の著作は手にしておりませんでした。
Elon Muskさんの幼少期について沢山書いてあるんだろうなと期待して読み進めましたが、9割以上はご本人のお話で、Elon Muskさんに関するお話しはその中心を占めておりません。いかにして年をとることに対して恐れないでいられるか。これがメインテーマです。その答え、読者へのメッセージは、そのまま引用させていただくと、「年をとるのを恐れない友だちと付き合うこと」。テクノロジーも活用して。その「友だち」には、家族も含まれているような気がします。
家族と絡めて話が進んでいきながら、特に離婚されたお相手、Elon Muskさんの父の存在が、ご本人、そしてElon Muskさんの姿勢に大きな影響というか陰をもたらしたことはご著書全体を通じて伝わってきます。Elon Muskさんの公式伝記にも、その著者Walter Isaacsonさんによる取材を通じて、父の感情の起伏が激しく、決して良好な親子関係ではなかったことが記されています*2。父の背中を眺めて良い意味で育ったとは思えない。父がどんな存在であっても、子は育つのだなと思ったりしてしまいます。外の師匠さえいれば。
これまでプロゴルファーを育てた親御さんの本は日本を問わず出版さてきました。おそらくその全てに私は目を通しました。日本語と英語で書かれたものに限定されます。漏れがあるかもしれませんけども。最初から親が「子どもをプロゴルファーに」と考えて厳しく接するスタイル、本人に自由にやらせて親は遠くから眺めるスタイル、多様な選択肢に触れさせ結果的に自発的に選んだのがゴルフでそれを機に徹底サポートするスタイル、他にも多様なスタイルがあります。ただこうしたご著書とMaye Muskさんのご著書が決定的に異なるのは、どのように子どもを育てきたのかという点について、基本的にダイレクトには1カ所しか触れられていないこと。そもそも本のタイトルにその子どもの名が使われていない。プロゴルファー(それに限らずスーパースリトートを含む)の親御さんが書かれた著書の多くとは違います。主タイトルとは言わずともサブタイトルには入れるのが恒例かと。子どもの名前をタイトルに記すのは、親御さんご本人の意思とは限らず、出版社の事情が大きいかなと察します。
『A Woman Makes a Plan: Advice for a Lifetime of Adventure, Beauty, and Success』。翻訳書なら名を入れるだろうと思っておりました。ただ、そちらにもElon Muskさんの名前は見当たりません。帯には、息子さんのお名前と写真が掲載されていますが、息子さんからの推薦文はありません。言葉は悪いですが、息子Elon Muskさんはおまけ。多くの人に本を手に取ってもらう入り口に過ぎない。私のような読み手に。あくまでもMaye Muskさんがご自身について語った本。好きなこと、やるべきだと思ったことを日々追求している姿。必死な姿。人生設計について。年を重ねることについて。Elon Muskさんを含めたお子様たちがいきいきと活躍されておられるのも、Maye Muskさんがどう教育したかというよりも、自分のいきいきした姿を子に見せるというのが背景にある。教育論として考えるならば、それがメッセージということになりましょうか。加えて、育った子に、いきいきとさせられている今の自分。そんなMaye Muskさんのファンになってしまう読者。
本日はホームコースで薄暮・ナイターラウンドの予定でしたが、大事をとって回らず。日々親子ラウンドをしていて子がいきいきと育つのかと思うと同時に、親が厳選した勉強ドリルやプログラミング・ドリル、ゴルフ・ドリルを用意して計画的に取り組ませたりするのではなくて、家でいきいきとして何かに取り組んでいる親の姿を見せなければと思いながらこの文章を書いております。パパはMacBookで仕事してると息子が思っているのか否か。
*1 Musk, Maye (2019), A Woman Makes a Plan: Advice for a Lifetime of Adventure, Beauty, and Success, Penguin Life (寺尾まち子・三瓶稀世訳,『72歳、今日が人生最高の日』, 集英社). なぜElon Muskさんのように子が育つのか、というのは読者の関心事だと思います。ご著書では一言、ビシッと答えておられます。「どうやってここまで成功した子どもたちを育てたのかと、よく尋ねられる。わたしは子どもたちが興味を抱いたことをやらさせただけ」(翻訳書p.107)。ここだけです。続く文章はお子様たちの具体的な姿について。すぐに自分の話に戻られておられる。43歳で2つめの修士号を取得。栄養管理士のお仕事も。かつては子どもたちのビジネスにお金を出したことも。今度は子どもたちのネットワークを活用してさらなる人生拡張。このバイタリティ、ご著書の表紙の写真がそれを物語っております。本の表紙に採用された写真が原著と翻訳書で異なるのも面白いです。
*2 Isaacson, Walter (2023), Elon Musk, Simon & Schuster (井口耕二訳, 『イーロン・マスク 上 下』,文藝春秋). この伝記のなかでBarack Obama元大統領のご著書に記された文章が引用されています。「人とは、父親の期待に添えるようにと生きているか、父親の失敗を償おうと生きているかだと言った人がいる。私が苦労してきたのは、このせいなのではないだろうか」(翻訳書p.17)。Elon Muskさんは父に関するこの「苦しみ」が原点だったと、著者のWalter Isaacsonさんは強調されています。